古典和歌stream

針はあれど妹しなければ付けめやと
我れを悩まし絶ゆる紐の緒

歌の意味
針はあっても妻がいないので、付けられるものかと私を困らせて、切れてしまう紐の緒よ。
鑑賞
巻第十二 寄物陳思 2982

詞書は前の歌に続き「物に寄せて思ひを陳ぶ」
 妻がいないので針はあっても紐を付けられず、切れた紐の緒が自分を困らせていると歌う男の歌である。旅先などで妻と離れて暮らす男のわびしさが、紐を擬人化したユーモラスな表現で描かれている。
 作者は未詳である。巻第十二は「古今相聞往来歌類之下」と題され、名の伝わらない人々の恋の歌を部立ごとに収めている。

 初句「針はあれど」は、針はあるけれど、の意である。
 二句「妹しなければ」は、妻がそばにいないので、の意で、「し」は強意である。
 三句「付けめやと」は、付けられるものかと、の意で、紐が自分をからかうように擬人化されている。
 四句「我れを悩まし」は、私を困らせて、の意である。
 結句「絶ゆる紐の緒」は、切れてしまう紐の緒よ、と体言止めで結び、繕ってくれる妻のいない男のわびしさをユーモラスに描いている。

はり:縫い針
なやます:困らせる
作者
作者未詳
出典
万葉集
前の歌
祝部らが斎くみもろのまそ鏡 懸けて偲ひつ逢ふ人ごとに
次の歌
高麗剣我が心から外のみに 見つつや君を恋ひわたりなむ