梓弓引きて緩へぬ大夫や
恋といふものを忍びかねてむ
- 歌の意味
-
梓弓を引き絞って緩めることのない立派な男子が、恋というものを耐え忍ぶことができないのだろうか。
- 鑑賞
-
巻第十二 寄物陳思 2987
詞書は前の歌に続き「物に寄せて思ひを陳ぶ」
弓を引き絞って緩めないように心を張りつめた立派な男子でも、恋には耐えられないのだろうかと自らに問う男の歌である。弓の張りつめた姿と、恋に弱る心とが対比されている。
作者は未詳である。巻第十二は「古今相聞往来歌類之下」と題され、名の伝わらない人々の恋の歌を部立ごとに収めている。
初句「梓弓」は、「引く」にかかる枕詞である。
二句「引きて緩へぬ」は、引き絞って緩めない、の意で、心をゆるめず張りつめた男子の姿をたとえている。前歌の「引きみ緩へみ」と対照をなす。
三句「大夫や」は、立派な男子が、の意で、「や」は疑問を表し、結句の連体形「てむ」で結ぶ。
四句「恋といふものを」は、恋というものを、の意で、八音の字余りである。
結句「忍びかねてむ」は、耐え忍ぶことができないのだろうか、の意で、本巻の第二千八百七十五首第二千九百七首と同じく恋に弱る男の姿を描いている。
ますらを:勇ましく立派な男子
しのぶ:耐え忍ぶ、こらえる
- 作者
-
作者未詳
- 出典
-
万葉集
- 前の歌
-
梓弓引きみ緩へみ思ひみて すでに心は寄りにしものを
- 次の歌
-
梓弓末の中ごろ淀めりし 君には逢ひぬ嘆きはやめむ