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たらちねの母が飼ふ蚕の繭隠り
いぶせくもあるか妹に逢はずして

歌の意味
母が飼っている蚕が繭にこもっているように、気が晴れずうっとうしいことだ。あの子に逢わないままでいると。
鑑賞
巻第十二 寄物陳思 2991

詞書は前の歌に続き「物に寄せて思ひを陳ぶ」
 母が飼う蚕が繭にこもる姿を序として、恋人に逢えない鬱屈した心を歌う男の歌である。母に守られて家にこもる娘の姿も重ねられているとされる。四句の原文の表記が戯書として名高い。
 作者は未詳である。巻第十二は「古今相聞往来歌類之下」と題され、名の伝わらない人々の恋の歌を部立ごとに収めている。

 初句「たらちねの」は、「母」にかかる枕詞である。
 二句「母が飼ふ蚕の」は、母が飼っている蚕が、の意である。
 三句「繭隠り」は、繭の中にこもっている、の意で、ここまでが閉じこめられた鬱屈から「いぶせく」を導く序詞となる。
 四句「いぶせくもあるか」は、気が晴れずうっとうしいことだ、の意である。原文ではこの句を「馬声蜂音石花蜘蛛荒鹿」と記し、馬の鳴き声を「い」、蜂の羽音を「ぶ」に当てるなど、遊び心のある戯書として知られる。
 結句「妹に逢はずして」は、あの子に逢わないままでいると、の意で、四句と倒置の関係にある。

たらちね:「母」にかかる枕詞
まよごもり:蚕が繭にこもること
作者
作者未詳
出典
万葉集
前の歌
娘子らが績み麻のたたり打ち麻懸け うむ時なしに恋ひわたるかも
次の歌
玉たすき懸けねば苦し懸けたれば 継ぎて見まくの欲しき君かも