思ひ出づる時はすべなみ佐保山に
立つ雨霧の消ぬべく思ほゆ
- 歌の意味
-
思い出す時はどうしようもなく、佐保山に立ちこめる雨霧のように、消えてしまいそうに思われる。
- 鑑賞
-
巻第十二 寄物陳思 3036
詞書は前の歌に続き「物に寄せて思ひを陳ぶ」
恋人を思い出すとどうしようもなく、佐保山に立つ雨霧のように消えてしまいそうに思われると歌う。霧を詠む一連の三首目で、消えやすい霧に自らの身を重ねている。
作者は未詳である。巻第十二は「古今相聞往来歌類之下」と題され、名の伝わらない人々の恋の歌を部立ごとに収めている。
初句「思ひ出づる」は、思い出す、の意で、六音の字余りである。
二句「時はすべなみ」は、時はどうしようもないので、の意である。
三句「佐保山に」は、奈良市北部の佐保のあたりの山に、の意である。
四句「立つ雨霧の」は、立ちこめる雨霧の、の意で、ここまでが「消ぬ」を導く序詞となる。前二首に続いて霧を詠み込んでいる。
結句「消ぬべく思ほゆ」は、消えてしまいそうに思われる、の意で、八音の字余りである。
あまぎり:雨まじりの霧
く:消える
- 作者
-
作者未詳
- 出典
-
万葉集
- 前の歌
-
暁の朝霧隠りかへらばに 何しか恋の色に出でにける
- 次の歌
-
殺目山行き返り道の朝霞 ほのかにだにや妹に逢はざらむ