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たらちねの母が呼ぶ名を申さめど
道行く人を誰れと知りてか

歌の意味
母が私を呼ぶ名を申し上げもしようけれど、道で行き会っただけのあなたを、どこの誰と知って名告れようか。
鑑賞
巻第十二 問答歌 3102

詞書は前の歌に続き「問答の歌」
 名を問われた娘が、道で行き会っただけの相手には名を明かせないと、やんわりと求婚を退ける歌である。前歌の「誰れ」という問いを、同じ「誰れ」の語で切り返している。
 作者は未詳である。巻第十二は「古今相聞往来歌類之下」と題され、名の伝わらない人々の恋の歌を部立ごとに収めている。

 初句「たらちねの」は、「母」にかかる枕詞である。
 二句「母が呼ぶ名を」は、母が私を呼ぶ名を、の意で、本名をいう。
 三句「申さめど」は、申し上げもしようけれど、の意で、仮名の行では「まをさめど」と読む。
 四句「道行く人を」は、道で行き会っただけのあなたを、の意である。
 結句「誰れと知りてか」は、どこの誰と知って名告れようか、の意の反語で、前歌の「子や誰れ」の問いに「誰れ」で答え返している。

たらちね:「母」にかかる枕詞
まをす:申し上げる
作者
作者未詳
出典
万葉集
前の歌
紫は灰さすものぞ海石榴市の 八十の街に逢へる子や誰れ
次の歌
逢はなくはしかもありなむ玉梓の 使をだにも待ちやかねてむ