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鈴鹿川八十瀬渡りて誰がゆゑか
夜越えに越えむ妻もあらなくに

歌の意味
鈴鹿川の多くの瀬を渡って、誰のために夜のうちに山を越えていくのだろうか。待つ妻もいないのに。
鑑賞
巻第十二 羇旅発思 3156

詞書は前の歌に続き「羇旅に思ひを発す」
 鈴鹿川の多くの瀬を渡り夜通し山を越えていくが、待つ妻もいないのに誰のためなのかと、旅の侘しさを嘆く歌である。前歌までの妻を思う旅の歌とは異なり、急ぐ目当てのない孤独な旅が歌われている。
 作者は未詳である。巻第十二は「古今相聞往来歌類之下」と題され、名の伝わらない人々の恋の歌を部立ごとに収めている。

 初句「鈴鹿川」は、三重県の鈴鹿川である。
 二句「八十瀬渡りて」は、多くの瀬を渡って、の意である。
 三句「誰がゆゑか」は、誰のためにか、の意で、「か」は疑問を表し、四句の連体形「む」で結ぶ。
 四句「夜越えに越えむ」は、夜のうちに山を越えていくのだろうか、の意である。
 結句「妻もあらなくに」は、待つ妻もいないのに、の意で、本巻の第三千百五十四首で妻のもとへ急ぐ男とは反対に、急ぐ目当てのない旅の侘しさを表している。

やそせ:多くの瀬
よごえ:夜のうちに山を越えること
作者
作者未詳
出典
万葉集
前の歌
悪木山木末ことごと明日よりは 靡きてありこそ妹があたり見む
次の歌
我妹子にまたも近江の安の川 安寐も寝ずに恋ひわたるかも