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さざれ波浮きて流るる泊瀬川
寄るべき礒のなきが寂しさ

歌の意味
さざ波が浮かぶように流れていく泊瀬川には、舟が寄るはずの磯がないのが寂しいことだ。
鑑賞
巻第十三 雑歌 3226

詞書「反歌」
 長歌(第三千二百二十五首)の反歌である。泊瀬川には舟を寄せる磯がないことを惜しみ、長歌の「浦なみか」「礒なみか」の問いを受けて寂しさで結ぶ。長歌は浦や磯がなくとも海人の釣舟よ競って漕ぎ入って来いと川を言祝ぐが、反歌は磯のなさを嘆く形をとり、土地ほめの歌に陰影を添えている。長歌の「よしゑやし浦はなくとも」の発想は、柿本人麻呂の石見相聞歌(巻第二の第百三十一首)の「よしゑやし浦はなくとも」と同じである。
 作者は未詳である。巻第十三は作者名を記さない長歌とその反歌を中心に編まれた巻で、古い歌謡や儀礼の歌の面影を伝える歌が多い。

 初句「さざれ波」は、細かく立つ小さな波のことで、山あいを流れる川の穏やかな水面を描く。
 二句「浮きて流るる」は、さざ波が水面に浮かぶように流れていく様子で、連体形「流るる」が次の「泊瀬川」にかかる。
 三句「泊瀬川」は、大和の初瀬(現在の奈良県桜井市)を流れる川で、長歌の「こもりくの泊瀬の川」を受ける。
 四句「寄るべき礒の」の「べき」は当然の助動詞「べし」の連体形で、本来舟が寄ってよいはずの磯という含みをもつ。
 結句「なきが寂しさ」は、「ないことの寂しさよ」と名詞「寂しさ」で止める体言止めで、嘆きの余韻を残す。「寂し」はここで古形の「さぶし」と読む。

さざれなみ:細かく立つ小さな波
いそ:岩の多い水辺、舟を寄せる岩場
出典
万葉集
前の歌
ひとりのみ見れば恋しみ神なびの 山の黄葉手折り来り君
次の歌
神なびの三諸の山に斎ふ杉 思ひ過ぎめや苔生すまでに