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帰りにし人を思ふとぬばたまの
その夜は我れも寐も寝かねてき

歌の意味
帰って行ってしまった人のことを思って、その夜は私も眠ることができなかった。
鑑賞
巻第十三 相聞 3269

詞書「反歌」
 長歌(第三千二百六十八首)の反歌である。雨や風の中を帰って行った人の身を案じ、その夜は自分も眠れなかったと詠む。長歌は、三諸の神奈備山から空が曇って雨が降り、風まで吹く中、真神の原を通って帰った人が無事に家に着いただろうかと気づかう女の歌である。反歌はその夜の自分の姿に焦点を移し、相手を案じる思いを静かに伝える。
 作者は未詳である。巻第十三は作者名を記さない長歌とその反歌を中心に編まれた巻で、古い歌謡や儀礼の歌の面影を伝える歌が多い。

 初句「帰りにし」は、帰って行ってしまったの意で、完了の「ぬ」と過去の「き」が別れた後の時間を示す。長歌の「帰りにし人」をそのまま受ける。
 二句「人を思ふと」は、人のことを思うとての意で、眠れない理由を示す。
 三句「ぬばたまの」は「夜」にかかる枕詞で、ぬばたまの実が黒いことから黒や夜に関わる語を導く。
 四句「その夜は我れも」の「も」は、雨の中を行く相手と同じく自分もという気持ちを表す。
 結句「寐も寝かねてき」の「寐」は眠りのことで、「寐も寝」と同じ意の語を重ねる。「かね」は〜できないの意、「てき」は完了と過去で、眠ることができなかったと結ぶ。

い:眠ること、眠り
ぬばたま:ヒオウギの黒い実、黒や夜を導く語
出典
万葉集
前の歌
明日香川瀬々の玉藻のうち靡き 心は妹に寄りにけるかも
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我が心焼くも我れなりはしきやし 君に恋ふるも我が心から