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隠口の泊瀬小国に妻しあれば
石は踏めどもなほし来にけり

歌の意味
泊瀬の小さな国に妻がいるので、石の多い道を踏みながらも、それでもやはり来てしまった。
鑑賞
巻第十三 問答 3311

詞書「反歌」
 問答の長歌(第三千三百十首)の反歌である。泊瀬に妻がいるので、石を踏む険しい道でもやはりやって来たと詠む。長歌は、泊瀬の国に妻問いに来た男が、雪や雨の中をやって来たのに、雉も鶏も鳴いて夜が明けてしまった、中に入って寝よう、この戸を開けてくれと呼びかける歌で、『古事記』の八千矛神の歌に似た古い型をもつ。次の長歌(第三千三百十二首)と反歌(第三千三百十三首)は女の答えである。本巻の第三千三百十七首にも「石は踏むとも」とあり、石を踏む苦労をいとわず通う心が共通して詠まれている。
 作者は未詳である。巻第十三は作者名を記さない長歌とその反歌を中心に編まれた巻で、古い歌謡や儀礼の歌の面影を伝える歌が多い。

 初句「隠口の」は「泊瀬」にかかる枕詞で、山に囲まれて隠れたような地形に由来する。
 二句「泊瀬小国に」の「小国」は小さな国、山あいの土地の意で、「小」は親しみを込めた接頭語である。
 三句「妻しあれば」の「し」は強意の副助詞で、已然形に「ば」が付いた確定条件として「妻がいるので」の意となる。字余りの句である。
 四句「石は踏めども」は、石の多い道を踏みながらもの意で、逆接の「ども」が道の険しさを示す。
 結句「なほし来にけり」の「なほし」は、それでもやはりの意である。完了の「ぬ」と詠嘆の「けり」で、来てしまったことを改めて確かめて結ぶ。

こもりく:山に囲まれて隠れたような所
をぐに:小さな国、山あいの土地
出典
万葉集
前の歌
天地の神をも我れは祈りてき 恋といふものはかつてやまずけり
次の歌
川の瀬の石踏み渡りぬばたまの 黒馬来る夜は常にあらぬかも