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泉川渡り瀬深み我が背子が
旅行き衣ひづちなむかも

歌の意味
泉川の渡り瀬が深いので、私の夫の旅の衣はひどく濡れてしまうのではないだろうか。
鑑賞
巻第十三 問答 3315

詞書「反歌」
 問答の長歌(第三千三百十四首)の反歌である。泉川の渡り瀬が深いので、徒歩で旅する夫の衣が濡れてしまうのではないかと案じる。長歌は、山背道をよその夫は馬で行くのに、自分の夫は歩いて行くのを見るたびに泣けてくる、母の形見の鏡と領巾を持って行って馬を買ってくれと妻が夫に訴える歌である。反歌は夫の旅の難儀を思いやる妻の心を、衣が濡れるという具体的な姿に託している。
 作者は未詳である。巻第十三は作者名を記さない長歌とその反歌を中心に編まれた巻で、古い歌謡や儀礼の歌の面影を伝える歌が多い。

 初句「泉川」は、現在の京都府南部を流れる木津川のことで、山背道の途中で渡る川である。
 二句「渡り瀬深み」の「み」は形容詞の語幹に付いて理由を表し、「渡る瀬が深いので」の意となる。
 三句「我が背子が」は、私の夫がの意で、「背子」は女性が夫や恋人を親しんで呼ぶ語である。
 四句「旅行き衣」は、旅に出て行くときの衣の意で、徒歩で行く夫の姿を思い浮かべさせる。
 結句「ひづちなむかも」の「ひづつ」は、ひどく濡れるの意で、強意の「ぬ」と推量の「む」に詠嘆の「かも」が付き、濡れてしまうのではないかと案じて結ぶ。

せこ:女性が夫や恋人を親しんで呼ぶ語
ひづつ:水につかってひどく濡れる
出典
万葉集
前の歌
川の瀬の石踏み渡りぬばたまの 黒馬来る夜は常にあらぬかも
次の歌
まそ鏡持てれど我れは験なし 君が徒歩よりなづみ行く見れば