門に居る我が背は宇智に至るとも
いたくし恋ひば今帰り来む
- 歌の意味
-
門口に立って出かけようとしている私の夫は、たとえ宇智まで行ったとしても、私がひどく恋しく思えば、すぐに帰って来るだろう。
- 鑑賞
-
巻第十三 問答 3322
詞書は前の歌に続き「反歌」
前の反歌に続く一首で、右五首の結びにあたる。門口に立つ夫が宇智まで行ったとしても、自分がひどく恋しがれば、すぐに帰って来るだろうと詠む。強く恋い慕う心が相手を引き戻すという信仰に支えられた歌で、夕占を問う長歌(第三千三百十八首)と同じく、占いや呪術的な発想が一連に通っている。前歌の不安な待ちとは対照的に、自信に満ちた明るい結びとなっている。
作者は未詳である。巻第十三は作者名を記さない長歌とその反歌を中心に編まれた巻で、古い歌謡や儀礼の歌の面影を伝える歌が多い。
初句「門に居る」は、門口にいるの意で、旅立ちの間際の夫の姿を示す。
二句「我が背は宇智に」の「宇智」は、現在の奈良県五條市のあたりで、大和から紀伊へ向かう道筋の地名である。
三句「至るとも」は、行き着いたとしてもの意で、逆接の仮定を表す。
四句「いたくし恋ひば」の「いたく」は、ひどく、はなはだしくの意で、「宇智」「至る」と「い」の音を重ねて調子を整える。
結句「今帰り来む」の「今」は、すぐにの意で、推量の「む」で夫がすぐ戻って来ることを確信して結ぶ。
せ:女性が夫や恋人を親しんで呼ぶ語
- 出典
-
万葉集
- 前の歌
-
さ夜更けて今は明けぬと戸を開けて 紀へ行く君をいつとか待たむ
- 次の歌
-
つのさはふ磐余の山に白栲に かかれる雲は大君にかも