夏麻引く海上潟の沖つ洲に
船は留めむさ夜更けにけり
- 歌の意味
-
海上潟の沖の洲に船を留めよう。夜もすっかり更けてしまった。
- 鑑賞
-
巻第十四 東歌 3348
詞書「東歌」
海上潟の沖の洲に船を泊めようと、夜更けの船旅の区切りをうたった歌である。夜の海を進む不安と、ひと息つこうとする安堵が素朴な言葉で表されている。
万葉集巻十四は全巻が東歌で、本歌はその巻頭に置かれる。左注に「右一首上総国歌」とあり、上総国(現在の千葉県市原市付近)の歌と伝える。巻頭に国名の明らかな雑歌五首が並び、本歌はその一首目である。
作者は未詳である。東歌は東国の人々の間でうたわれた歌とされ、方言をまじえた素朴でおおらかな表現が特色である。
初句「夏麻引く」は「海上」にかかる枕詞である。麻を引き抜く「うな(畝)」から音で「うなかみ」へかかるとされる。巻頭の一句として、東国の土地の言葉の響きを印象づける。
二句「海上潟の」は上総国海上郡の干潟で、現在の千葉県市原市付近とされる。格助詞「の」で次の「沖つ洲」へつなぐ。
三句「沖つ洲に」の「つ」は「の」にあたる古い格助詞で、沖にある洲をいう。干潟の沖に現れた砂州が船を留める場所となる。
四句「船は留めむ」の「む」は意志の助動詞で、ここで船を留めようという決意を示す。四句切れである。
結句「さ夜更けにけり」の「さ」は接頭語、「にけり」は完了と詠嘆で、夜がすっかり更けたことに今気づいた感慨を表す。結句が四句の理由を後から示す倒置的な構成である。
なつそびく:麻を引き抜く意から「うなかみ」などにかかる枕詞
うなかみがた:上総国海上郡の干潟。現在の千葉県市原市付近
おきつす:沖にある洲
- 出典
-
万葉集
- 前の歌
-
草枕この旅の日に妻離り 家道思ふに生けるすべなし
- 次の歌
-
葛飾の真間の浦廻を漕ぐ船の 船人騒く波立つらしも