- 歌の意味
-
葛飾の真間の入江のあたりを漕ぐ船の船人たちが騒いでいる。波が立っているらしい。
- 鑑賞
-
巻第十四 東歌 3349
詞書は前の歌に続き「東歌」
真間の入江を漕ぐ船の船人たちの騒ぐ声から、沖に波が立ってきたことを推し量った歌である。目に見えない波のようすを、聞こえてくる人の声でとらえたところに臨場感がある。
左注に「右一首下総国歌」とある。真間は現在の千葉県市川市真間のあたりで、本巻には真間の手児名を詠んだ歌も収められている。前歌の上総の海上潟に続き、房総の水辺の歌が並ぶ配列である。
作者は未詳である。東歌は東国の人々の間でうたわれた歌とされ、方言をまじえた素朴でおおらかな表現が特色である。
初句「葛飾の」は下総国葛飾郡で、現在の東京都東部から千葉県北西部にかけての地域である。本巻の第三千三百八十四首、第三千三百八十五首、第三千三百八十七首も同じ初句で始まり、葛飾の真間を詠む歌群の先触れとなっている。
二句「真間の浦廻を」の「浦廻」は入江の曲がりくねったあたりをいう。「を」は動作の場所を示し、そこを船が漕ぎめぐる。
三句「漕ぐ船の」は二句から続き「船人」を導く。漕ぐ船の、と重ねることで船の動きが具体的に示される。
四句「船人騒く」の「騒く」は古くは清音で、人々が声をあげて騒ぐ意である。音によって状況を知るという構図がここで示される。
結句「波立つらしも」の「らし」は根拠のある推定の助動詞で、船人の騒ぎを根拠に波が立ったと推し量る。「も」は詠嘆の終助詞である。前歌の夜の船泊りと対をなす、昼の入江の動きのある一首である。
うらみ:入江の湾曲したあたり
ふなびと:船頭や船に乗る人
さわく:人々が声を立てて騒ぐ
- 出典
-
万葉集
- 前の歌
-
夏麻引く海上潟の沖つ洲に 船は留めむさ夜更けにけり
- 次の歌
-
筑波嶺の新桑繭の衣はあれど 君が御衣しあやに着欲しも