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筑波嶺の新桑繭の衣はあれど
君が御衣しあやに着欲しも

歌の意味
筑波山の新しい桑の葉で育てた繭の着物はあるけれど、あなたのお召し物がむしょうに着てみたい。
鑑賞
巻第十四 東歌 3350

詞書は前の歌に続き「東歌」
 上等な新桑の繭で織った衣を持っていても、恋しい人の着ている衣こそ身にまといたいという女性の歌である。衣を通して相手と一体になりたいという、ひたむきな思いが表されている。
 左注に或本の歌として、初句を「たらちねの」、結句を「あまた着欲しも」とする伝えを記す。また本歌と次歌を合わせて「右二首常陸国歌」とあり、常陸国(現在の茨城県)の歌と伝える。
 作者は未詳である。東歌は東国の人々の間でうたわれた歌とされ、方言をまじえた素朴でおおらかな表現が特色である。

 初句「筑波嶺の」は常陸国の筑波山で、男体山と女体山の二峰をもつ。筑波山は本巻の常陸国歌に繰り返し現れる山であり、次歌も同じ「筑波嶺」で始まる。
 二句「新桑繭の」は新しく芽吹いた桑の葉で飼った蚕の繭をいう。養蚕の盛んな東国の暮らしが背景にある。
 三句「衣はあれど」の「ど」は逆接の接続助詞で、立派な衣があるのに、と上の句を受けて下の句の願いへ転じる。
 四句「君が御衣し」の「御衣」は相手の衣服を敬っていう語で、「し」は強意の副助詞である。自分の衣と相手の衣の対比が一首の中心である。
 結句「あやに着欲しも」の「あやに」はむやみに、無性にの意、「欲し」は願望を表し、「も」は詠嘆である。上等の衣よりも相手の衣を、という価値の転換で結ぶ。

にひぐはまよ:新しい桑の葉で育てた蚕の繭
みけし:相手の着物を敬っていう語
出典
万葉集
前の歌
葛飾の真間の浦廻を漕ぐ船の 船人騒く波立つらしも
次の歌
筑波嶺に雪かも降らるいなをかも 愛しき子ろが布乾さるかも