古典和歌stream

伎倍人のまだら衾に綿さはだ
入りなましもの妹が小床に

歌の意味
伎倍の人のまだら模様の夜具に綿がたっぷり入っているように、入ってしまえばよかったのに、いとしい人の寝床に。
鑑賞
巻第十四 東歌 3354

詞書は前の歌に続き「相聞」
 伎倍の人の夜具に綿がたっぷり詰められているように、恋人の床に入ってしまえばよかったと悔やむ歌である。日常の夜具を譬えに用いた、ユーモラスで大胆な表現が民謡らしい。
 左注に「右二首遠江国歌」とあり、前歌と一組をなす。前歌が共寝を誘うのに対し、本歌は入りそびれたことを悔やむ構図で、誘いと悔いとが対になっている。
 作者は未詳である。東歌は東国の人々の間でうたわれた歌とされ、方言をまじえた素朴でおおらかな表現が特色である。

 初句「伎倍人の」は伎倍の土地の人をいう。前歌の「伎倍の林」を受けて同じ地名で始まる。
 二句「まだら衾に」はまだら模様に染めた夜具をいう。衾は寝るときにかける掛け布団にあたる。
 三句「綿さはだ」の「さはだ」はたくさんの意の東国語である。初句からここまでが「入り」を導く序詞となる。
 四句「入りなましもの」の「なまし」は反実仮想で、入ってしまえばよかったのにという悔いを表す。「もの」は逆接的な詠嘆を添える。四句切れの倒置である。
 結句「妹が小床に」の「小床」は寝床をいう。倒置によって、どこに入りたかったのかを最後に明かして結ぶ。

ふすま:寝るときにかける夜具
さはだ:たくさんの意の東国語
をどこ:寝床
出典
万葉集
前の歌
あらたまの伎倍の林に汝を立てて 行きかつましじ寐を先立たね
次の歌
天の原富士の柴山この暗の 時ゆつりなば逢はずかもあらむ