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筑波嶺の嶺ろに霞居過ぎかてに
息づく君を率寝て遣らさね

歌の意味
筑波山の峰に霞がかかって動かないように、通り過ぎかねてため息をついているあの方を、共寝をしてから帰してあげなさい。
鑑賞
巻第十四 東歌 3388

詞書は前の歌に続き「相聞」
 筑波山の峰にかかって動かない霞のように、娘の家の前を去りかねてため息をつく男を、共寝をしてから帰してあげなさいと、娘に勧める歌である。第三者が恋の仲立ちをするような、おおらかで明るい調子である。
 本歌から十首が常陸国(現在の茨城県)の歌で、左注に「右十首常陸国歌」とある。筑波山は男女が集う歌垣(嬥歌)の地として知られ、本歌もその場の雰囲気を伝えると考えられている。
 作者は未詳である。東歌は東国の人々の間でうたわれた歌とされ、方言をまじえた素朴でおおらかな表現が特色である。

 初句「筑波嶺の」は常陸国の筑波山で、常陸国歌十首のうち多くが筑波山を詠む。
 二句「嶺ろに霞居」の「嶺ろ」は峰の東国方言で、「霞居」は霞がとどまっていることをいう。初句と二句が「過ぎかてに」を導く序詞である。
 三句「過ぎかてに」の「かてに」はできずにの意で、通り過ぎることができずにという。
 四句「息づく君を」の「息づく」はため息をつくことで、去りかねる男の姿をいう。
 結句「率寝て遣らさね」の「率寝」は連れて寝ること、「さね」は尊敬と願望を表し、帰してあげなさいと勧めて結ぶ。

ゐぬ:連れて行って共に寝る
いきづく:ため息をつく
出典
万葉集
前の歌
足の音せず行かむ駒もが葛飾の 真間の継橋やまず通はむ
次の歌
妹が門いや遠そきぬ筑波山 隠れぬほとに袖は振りてな