人皆の言は絶ゆとも埴科の
石井の手児が言な絶えそね
- 歌の意味
-
ほかの人々の便りが絶えることがあっても、埴科の石井の娘よ、あなたの便りは絶やさないでおくれ。
- 鑑賞
-
巻第十四 東歌 3398
詞書は前の歌に続き「相聞」
世間の人々からの便りが絶えても、埴科の石井の娘からの便りだけは絶えないでほしいと願う歌である。ほかのすべてと恋人一人とを対比させ、その人への思いの深さを示している。
左注に「右四首信濃国歌」とあり、本歌から四首が信濃国(現在の長野県)の歌である。埴科は信濃国埴科郡で、現在の長野県千曲市、坂城町付近とされる。
作者は未詳である。東歌は東国の人々の間でうたわれた歌とされ、方言をまじえた素朴でおおらかな表現が特色である。
初句「人皆の」は世間の人々をいい、恋人一人との対比の起点となる。
二句「言は絶ゆとも」は便りが絶えてもの意で、「とも」は逆接仮定である。
三句「埴科の」は信濃国埴科郡で、恋人の住む土地を示す。
四句「石井の手児が」の「石井」は岩の間から湧く泉、またはその地名で、「手児」は娘をいう。
結句「言な絶えそね」の「な…そね」は禁止の願いで、武蔵国歌の第三千三百八十首の「言な絶えそね」と同じ結句である。
てご:娘、少女
いしゐ:岩の間から湧く泉
- 出典
-
万葉集
- 前の歌
-
常陸なる浪逆の海の玉藻こそ 引けば絶えすれあどか絶えせむ
- 次の歌
-
信濃道は今の墾り道刈りばねに 足踏ましなむ沓はけ我が背