- 歌の意味
-
谷が狭いので峰まで這い延びている美しい葛のように、絶えようという心を私は持っていないのに。
- 鑑賞
-
巻第十四 東歌 3507
詞書は前の歌に続き「相聞」
谷が狭いので峰まで長く這い延びた葛のように、二人の仲を絶とうという心など自分にはないとうたう歌である。どこまでも延びる蔓草に、絶えることのない恋の思いを託している。
相聞の一首である。蔓草を恋の永続にたとえる発想は、上野国歌の第三千四百三十四首「阿蘇山つづら野を広み延ひにしものをあぜか絶えせむ」とも通い合う。
作者は未詳である。東歌は東国の人々の間でうたわれた歌とされ、方言をまじえた素朴でおおらかな表現が特色である。
初句「谷狭み」の「を…み」の形で、谷が狭いのでの意である。
二句「峰に延ひたる」は峰まで這い延びているの意である。
三句「玉葛」の「玉」は美称で、美しい葛をいう。初句からここまでが序詞である。
四句「絶えむの心」は絶えようという心の意で、蔓草が絶えることに重ねる。
結句「我が思はなくに」の「なくに」は打消の詠嘆で、思っていないのにと結ぶ。
たまかづら:美しい葛。蔓草の美称
- 出典
-
万葉集
- 前の歌
-
新室のこどきに至ればはだすすき 穂に出し君が見えぬこのころ
- 次の歌
-
芝付の御宇良崎なるねつこ草 相見ずあらば我れ恋ひめやも