君が行く海辺の宿に霧立たば
我が立ち嘆く息と知りませ
- 歌の意味
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あなたが行く先の海辺の宿に霧が立ちこめたなら、それは私が立ちつくして嘆く息だと思ってください。
- 鑑賞
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巻第十五 遣新羅使人歌 3580
詞書は前の歌に続き「新羅に遣はさるる使人等、別れを悲しびて贈答し、また海路にして情を慟みて思ひを陳べ、并せて所に当りて誦する古歌」
旅先の海辺に立つ霧を、自分の嘆きの息だと思ってほしいと妻が夫に訴えた歌である。嘆きの息が霧になるという発想は万葉集に例があり、遠く離れても自分の思いが夫のもとに届くことを願っている。この霧の趣向は、のちに夫の側が旅先で霧を見て妻をしのぶ本巻の第三千六百十五首と第三千六百十六首に受け継がれ、歌群全体を貫く対応となっている。
本巻の前半は、天平八年に新羅へ遣わされた使節一行の歌を、難波の出航から帰途まで旅程の順に収めた歌群である。左注に「右十一首贈答」とあり、巻頭の十一首は出発を前にした使人とその妻との別れの贈答である。作者の名はいずれも記されていない。
初句「君が行く」 夫がこれから向かう旅路を指す。
二句「海辺の宿に」 船旅の途中で泊まる浜辺の仮の宿である。
三句「霧立たば」 「立たば」は仮定条件で、霧が立ったならばの意。
四句「我が立ち嘆く」 「立ち」は霧が「立つ」と響き合い、妻がたたずんで嘆く姿と霧の立ちのぼる様子とを重ねている。
結句「息と知りませ」 「ませ」は尊敬の補助動詞「ます」の命令形で、私の息だと知ってくださいと夫に願う。次歌の第三千五百八十一首で夫がこの「霧」を受けて答えている。
やど:旅先で泊まる所
なげく:ため息をついて悲しむ
- 出典
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万葉集
- 前の歌
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大船に妹乗るものにあらませば 羽ぐくみ持ちて行かましものを
- 次の歌
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秋さらば相見むものを何しかも 霧に立つべく嘆きしまさむ