妹とありし時はあれども別れては
衣手寒きものにぞありける
- 歌の意味
-
妻と一緒にいたときはそうでもなかったけれど、別れてしまうと、袖のあたりが寒く感じられるものであったよ。
- 鑑賞
-
巻第十五 遣新羅使人歌 3591
詞書は前の歌に続き「新羅に遣はさるる使人等、別れを悲しびて贈答し、また海路にして情を慟みて思ひを陳べ、并せて所に当りて誦する古歌」
妻と別れてみて、袖のあたりに寒さを覚えることに気づいたと詠む歌である。共寝の温もりを失った寂しさを、肌に感じる寒さで表している。別れて初めて知ったという気づきが、結句の「けり」によって表されている。
左注に「右三首臨發之時作歌」とあり、本巻の第三千五百九十一首から第三千五百九十三首までの三首は、いよいよ出発に臨んだ時の作である。作者の名は記されていない。
初句「妹とありし」 「し」は過去の助動詞「き」の連体形で、妻と共にいたの意である。
二句「時はあれども」 共にいた時はそれでよかったけれどもの意で、逆接の「ども」で下へ続く。
三句「別れては」 別れてしまうとの意で、上の句と対照をなす。
四句「衣手寒き」 「衣手」は袖のことで、袖が寒いとは、共寝をする人がいない寂しさを表す。
結句「ものにぞありける」 「ぞ」は係助詞で、結びは連体形「ける」となる係り結びである。「けり」は今初めて気づいた詠嘆を表す。
ころもで:袖
- 出典
-
万葉集
- 前の歌
-
妹に逢はずあらばすべなみ岩根踏む 生駒の山を越えてぞ我が来る
- 次の歌
-
海原に浮寝せむ夜は沖つ風 いたくな吹きそ妹もあらなくに