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潮待つとありける船を知らずして
悔しく妹を別れ来にけり

歌の意味
潮が満ちるのを待って停泊していた船だとも知らないで、悔しいことに、妻と早々に別れて来てしまった。
鑑賞
巻第十五 遣新羅使人歌 3594

詞書は前の歌に続き「新羅に遣はさるる使人等、別れを悲しびて贈答し、また海路にして情を慟みて思ひを陳べ、并せて所に当りて誦する古歌」
 船が潮待ちのために港にとどまっていると知っていれば、もっと妻のもとにいられたのにと悔やむ歌である。出発を急いで別れて来たものの、実際には船がすぐに出ない、旅の始めの思わぬ足止めが詠まれている。妻への名残の深さが、悔しさということばに表れている。
 左注に「右八首乗船入海路上作歌」とあり、本巻の第三千五百九十四首から第三千六百一首までの八首は、船に乗って海路に入ってからの作である。作者の名は記されていない。

 初句「潮待つと」 船出に適した潮の満ち引きを待つことで、「と」は目的を表す。
 二句「ありける船を」 「ける」は過去の助動詞「けり」の連体形で、潮待ちのために港にとどまっていた船をの意である。
 三句「知らずして」 そのことを知らないでの意で、下の句の悔しさの理由となる。
 四句「悔しく妹を」 「悔しく」は結句の「別れ来」にかかり、悔しくも妻と別れての意。「妹を別る」は妻と別れる意の古い言い方である。
 結句「別れ来にけり」 「に」は完了、「けり」は詠嘆で、別れて来てしまったことだと嘆いている。

しほ:潮、海水の満ち引き
出典
万葉集
前の歌
大伴の御津に船乗り漕ぎ出ては いづれの島に廬りせむ我れ
次の歌
朝開き漕ぎ出て来れば武庫の浦の 潮干の潟に鶴が声すも