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玉藻刈る処女を過ぎて夏草の
野島が崎に廬りす我れは

歌の意味
玉藻を刈る処女の地を過ぎて、夏草の茂る野島の崎に、私は仮の宿りをしている。
鑑賞
巻第十五 遣新羅使人歌 3606

詞書は前の歌に続き「所に当りて誦詠する古歌」
 摂津の処女の地を過ぎ、淡路島の野島の崎で仮寝をしていると詠む旅の歌である。左注に、柿本人麻呂の歌では二句が「敏馬を過ぎて」、結句が「船近づきぬ」となっているとあり、これは巻第三の第二百五十首にある人麻呂の羇旅歌にあたる。人麻呂の歌は野島の崎に船が近づいたところで結ばれるが、本歌は野島で宿りをする場面に歌い替えられており、一行が自分たちの旅程に合わせて古歌を誦したさまがうかがえる。
 作者の柿本人麻呂は、持統天皇と文武天皇の時代に宮廷歌人として活躍した万葉集を代表する歌人で、旅の歌や挽歌にすぐれた作を多く残した。本歌は人麻呂の歌が一行によって歌い替えられたかたちで伝わったものである。
 詞書によれば、本巻の第三千六百二首から第三千六百十首までは、一行が旅の途中でその場にふさわしいとして口ずさんだ古歌である。自作ではない歌も旅の歌群に取りこまれており、当時の人々が古歌をどのように共有し、場に応じて歌い替えていたかを示している。

 初句「玉藻刈る」 美しい藻を刈る海辺の意で、海に面した地名に冠する枕詞的な表現である。
 二句「処女を過ぎて」 「処女」は摂津国の地名で、処女塚のあたり、現在の神戸市東灘区付近とされる。人麻呂の歌ではここが「敏馬を過ぎて」となっている。
 三句「夏草の」 夏草の茂る野の意から「野島」の「野」にかかる枕詞である。
 四句「野島が崎に」 淡路島の北西部、現在の兵庫県淡路市野島付近の岬である。
 結句「廬りす我れは」 「廬り」は仮小屋を作って宿ること。「我れは」を最後に置いた倒置である。人麻呂の歌では「船近づきぬ」と結ばれる。

たまも:美しい藻
をとめ:ここでは摂津国の地名、処女塚のあたり
いほる:仮小屋を作って宿る
作者
柿本人麻呂(異伝)
出典
万葉集
前の歌
わたつみの海に出でたる飾磨川 絶えむ日にこそ我が恋やまめ
次の歌
白栲の藤江の浦に漁りする 海人とや見らむ旅行く我れを