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沖つ風いたく吹きせば我妹子が
嘆きの霧に飽かましものを

歌の意味
沖の風がひどく吹いたなら、妻の嘆きの霧を、心ゆくまで身に浴びられるだろうに。
鑑賞
巻第十五 遣新羅使人歌 3616

詞書は前の歌に続き「風速の浦に船泊まりする夜に作る歌二首」
 前歌に続いて霧を妻の嘆きの息と見て、沖の風が強く吹いて霧を運んでくれたなら、心ゆくまでその霧に包まれられるのにと願った歌である。妻の嘆きをせめて霧として身に受けたいという、切ない思いが表されている。出発に臨んで沖の風に激しく吹くなと願った本巻の第三千五百九十二首とは、同じ沖の風に正反対の願いをかけた構図になっている。
 詞書によれば、風速の浦に船を泊めた夜の作二首の一つである。風速の浦は現在の広島県東広島市安芸津町の風早付近とされる。作者の名は記されていない。

 初句「沖つ風」 沖から吹く風の意で、本巻の第三千五百九十二首の三句と同じ語である。
 二句「いたく吹きせば」 「せ」は過去の助動詞「き」の未然形とされ、「せば」は結句の「まし」と呼応する反実仮想の条件である。ひどく吹いたならばの意となる。
 三句「我妹子が」 いとしい妻がの意である。
 四句「嘆きの霧に」 前歌第三千六百十五首で見た霧を、妻の嘆きの息が霧となったものと見ている。
 結句「飽かましものを」 「飽く」は満ち足りる意、「まし」は反実仮想、「ものを」は逆接を含む詠嘆で、心ゆくまで浴びられるだろうにと結ぶ。

あく:満ち足りる、十分に味わう
出典
万葉集
前の歌
我がゆゑに妹嘆くらし風早の 浦の沖辺に霧たなびけり
次の歌
石走る滝もとどろに鳴く蝉の 声をし聞けば都し思ほゆ