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粟島の逢はじと思ふ妹にあれや
安寐も寝ずて我が恋ひわたる

歌の意味
粟島の名のように、逢うまいと思っている妻だというのだろうか。そうではないのに、安らかに眠ることもできずに私は恋い続けている。
鑑賞
巻第十五 遣新羅使人歌 3633

詞書は前の歌に続き「周防国玖河郡の麻里布の浦を行く時に作る歌八首」
 粟島の名から「逢はじ」を導き、逢うまいと思っている妻でもないのに、なぜ安らかに眠れないほど恋い続けるのかと嘆いた歌である。本巻の第三千六百三十一首で遠くから恋うるほかないとされた粟島が、ここでは妻への恋を言い出すきっかけとなっている。地名の音を恋の思いに転じる、旅の歌らしい技巧が用いられている。
 詞書によれば、周防国玖河郡の麻里布の浦を行く時に作った八首の一つである。麻里布の浦は現在の山口県岩国市の海岸とされる。作者の名は記されていない。

 初句「粟島の」 粟島の「あは」の音から、同音を含む二句の「逢はじ」を導く序となっている。
 二句「逢はじと思ふ」 「じ」は打消の意志を表す助動詞で、逢うまいと思うの意である。
 三句「妹にあれや」 「や」は疑問、反語で、逢うまいと思う妻であるからか、そうではないのにの意。六音の字余りで、ここで切れる三句切れである。
 四句「安寐も寝ずて」 「安寐」は安らかな眠りのことで、安らかに眠ることもしないでの意である。
 結句「我が恋ひわたる」 「わたる」は時間的に続ける意で、恋い続けていると結ぶ。

やすい:安らかな眠り
こひわたる:恋い続ける
出典
万葉集
前の歌
大船にかし振り立てて浜清き 麻里布の浦に宿りかせまし
次の歌
筑紫道の可太の大島しましくも 見ねば恋しき妹を置きて来ぬ