都辺に行かむ船もが刈り薦の
乱れて思ふ言告げやらむ
- 歌の意味
-
都の方へ行く船があればよいのに。刈り取った薦のように乱れて思い悩んでいる心のうちを、ことづけてやろう。
- 鑑賞
-
巻第十五 遣新羅使人歌 3640
詞書「熊毛の浦に船泊まりする夜に作る歌四首」
都の方へ向かう船があれば、思い乱れる心のうちを家の人にことづけたいのにと願った歌である。刈り取った薦が乱れ散るさまに、旅先で思い悩む心を重ねている。都へ便りを託したいという願いは、二首後の本巻の第三千六百四十三首で沖から都へ上る船人を見つけて、旅の宿りを知らせようとする歌へとつながっている。
作者の羽栗は、左注に氏のみが記されて名を欠いており、一行のうちのどの人物であるかは明らかでない。
詞書によれば、熊毛の浦に船を泊めた夜に作った四首の一つである。熊毛の浦は周防国熊毛郡の浦で、現在の山口県上関町付近とする説などがある。左注に「右一首羽栗」とある。
初句「都辺に」 「都辺」は都の方、都のあたりの意である。
二句「行かむ船もが」 「もが」は願望の終助詞で、都へ行く船があればよいのにの意。ここで切れる二句切れである。
三句「刈り薦の」 刈り取った薦が乱れ散ることから、「乱る」にかかる枕詞である。
四句「乱れて思ふ」 心が乱れて思い悩むさまで、旅の心細さと家への思いが入り乱れている。
結句「言告げやらむ」 「言告ぐ」はことづける、伝言する意で、「やらむ」はこちらから送ってやろうの意である。
かりこも:刈り取った薦、「乱る」にかかる枕詞
ことつぐ:ことづける、伝言する
- 作者
-
羽栗
- 出典
-
万葉集
- 前の歌
-
波の上に浮き寝せし宵あど思へか 心悲しく夢に見えつる
- 次の歌
-
暁の家恋しきに浦廻より 楫の音するは海人娘子かも