沖辺より潮満ち来らし可良の浦に
あさりする鶴鳴きて騒きぬ
- 歌の意味
-
沖の方から潮が満ちてくるらしい。可良の浦で餌をあさっていた鶴が、鳴いて騒いでいる。
- 鑑賞
-
巻第十五 遣新羅使人歌 3642
詞書は前の歌に続き「熊毛の浦に船泊まりする夜に作る歌四首」
可良の浦で餌をあさる鶴が鳴き騒ぐのを聞いて、沖から潮が満ちてくるらしいと推し量った叙景の歌である。潮の満ちてくるのを鶴の騒ぎから知るという、自然の動きへの細やかな観察がある。備中の玉の浦で詠まれた本巻の第三千五百九十八首にも「あさりする鶴」が詠まれ、鶴の声から時の移りを知るという同じ趣向が見られる。可良の浦の所在は明らかでない。
詞書によれば、熊毛の浦に船を泊めた夜に作った四首の一つである。熊毛の浦は周防国熊毛郡の浦で、現在の山口県上関町付近とする説などがある。四首のうち作者が記されるのは最初の一首のみで、本歌の作者の名は記されていない。
初句「沖辺より」 沖のあたりからの意である。
二句「潮満ち来らし」 「らし」は根拠のある推定の助動詞で、潮が満ちてくるらしいの意。ここで切れる二句切れである。
三句「可良の浦に」 熊毛の浦の近くの浦と考えられるが、所在は明らかでない。
四句「あさりする鶴」 「あさる」は餌を探し求める意で、本巻の第三千五百九十八首の四句と同じ句である。
結句「鳴きて騒きぬ」 「騒く」は騒ぐの意で、潮が満ちて餌場を追われた鶴が騒ぐさまである。この光景が二句の推定の根拠となっている。
あさる:餌を探し求める
さわく:騒ぐ
- 出典
-
万葉集
- 前の歌
-
暁の家恋しきに浦廻より 楫の音するは海人娘子かも
- 次の歌
-
沖辺より船人上る呼び寄せて いざ告げ遣らむ旅の宿りを