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秋萩ににほへる我が裳濡れぬとも
君が御船の綱し取りてば

歌の意味
秋萩の色に美しく染まった私の裳が濡れてしまおうとも、あなたの御船の綱を、この手に取ることさえできるならば。
鑑賞
巻第十五 遣新羅使人歌 3656

詞書「七夕に天漢を仰ぎ観て、おのもおのも思ふところを陳べて作る歌三首」
 織女の立場に立ち、秋萩に染まった裳が濡れてもかまわない、彦星の船の綱を手に取ることさえできればと詠んだ七夕の歌である。年に一度の逢瀬を待ちわびる織女の心を借りて、自らも都の妻との再会を願う心が込められている。左注に「右一首大使」とあり、使節の長である大使の作である。
 作者の阿倍継麻呂は遣新羅使の大使で、天平八年に任じられた。新羅からの帰途、翌天平九年に対馬で没した。
 詞書によれば、七夕の夜に天の川を仰ぎ見て、それぞれが思いを述べて作った三首の一つである。一行は筑紫の館で七月七日を迎えており、秋の帰国という出発時の約束がすでに果たせないことが明らかになりつつあった。

 初句「秋萩に」 秋に花咲く萩で、その色に染まるさまを示す。
 二句「にほへる我が裳」 「にほふ」は色美しく照り映える意、「る」は存続の助動詞「り」の連体形で、萩の色に美しく染まった私の裳の意。「裳」は腰から下にまとう衣で、織女の装いである。
 三句「濡れぬとも」 「ぬ」は完了、「とも」は逆接の仮定で、濡れてしまおうともの意である。
 四句「君が御船の」 「君」は彦星で、天の川を渡ってくる船を指す。
 結句「綱し取りてば」 「し」は強意、「てば」は完了の「つ」の未然形に「ば」がついた仮定条件で、綱を取ることができるならばの意。後に続く「かまわない」の意を言いさして余韻を残している。

にほふ:色美しく照り映える
も:裳、腰から下にまとう衣
作者
阿倍継麻呂
出典
万葉集
前の歌
今よりは秋づきぬらしあしひきの 山松蔭にひぐらし鳴きぬ
次の歌
年にありて一夜妹に逢ふ彦星も 我れにまさりて思ふらめやも