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大君の遠の朝廷と思へれど
日長くしあれば恋ひにけるかも

歌の意味
ここは大君の治める遠い地の政庁だと思って心を励ましてきたけれども、旅の日数が長くなったので、家が恋しくなってしまったことだ。
鑑賞
巻第十五 遣新羅使人歌 3668

詞書「筑前国志麻郡の韓亭に到りて、船泊まりして三日を経。時に夜月の光、皎々として流照す。たちまちにこの華に対して旅情悽噎す。おのもおのも心緒を陳べて、いささかに裁る歌六首」
 筑紫は大君の遠い政庁の地であり、都と変わらないと思ってきたが、旅の日数が重なって家が恋しくなったと詠んだ歌である。使節の長として望郷の思いを抑えてきた大使が、ついに恋しさを口にしたところに、長旅の重さが表れている。左注に「右一首大使」とあり、韓亭での六首の最初に置かれている。
 作者の阿倍継麻呂は遣新羅使の大使で、天平八年に任じられた。新羅からの帰途、翌天平九年に対馬で没した。
 詞書によれば、筑前国志麻郡の韓亭に着いて三日間船を泊めていた時、夜の月の光が白々と照りわたり、その美しさに向かって旅の思いに胸がふさがり、それぞれが心を述べて作った六首の一つである。韓亭は現在の福岡市西区宮浦付近とされ、筑紫を離れて外洋へ向かう前の港であった。

 初句「大君の」 「大君」は天皇のことである。
 二句「遠の朝廷と」 「遠の朝廷」は都から遠く離れた地にある役所のことで、ここでは筑紫の大宰府を指す。
 三句「思へれど」 「れ」は存続の助動詞「り」の已然形で、そう思ってはいるけれどもの意となる。
 四句「日長くしあれば」 「日」は「け」と読み日数のこと、「し」は強意で、旅の日数が長いのでの意である。
 結句「恋ひにけるかも」 「に」は完了、「けるかも」は詠嘆で、恋しくなってしまったことだと結ぶ。

とほのみかど:都から遠く離れた地にある役所、ここでは大宰府
け:日、日数
作者
阿倍継麻呂
出典
万葉集
前の歌
我が旅は久しくあらしこの我が着る 妹が衣の垢つく見れば
次の歌
旅にあれど夜は火灯し居る我れを 闇にや妹が恋ひつつあるらむ