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韓亭能許の浦波立たぬ日は
あれども家に恋ひぬ日はなし

歌の意味
韓亭の能許の浦に波の立たない日はあっても、家を恋しく思わない日はない。
鑑賞
巻第十五 遣新羅使人歌 3670

詞書は前の歌に続き「筑前国志麻郡の韓亭に到りて、船泊まりして三日を経。時に夜月の光、皎々として流照す。たちまちにこの華に対して旅情悽噎す。おのもおのも心緒を陳べて、いささかに裁る歌六首」
 韓亭の能許の浦に波の立たない日はあっても、家を恋しく思わない日はないと詠んだ歌である。絶えず寄せるはずの波にさえ休む日があるのに、自分の家恋しさには休む日がないという対比によって、望郷の思いの絶え間なさを強調している。能許は韓亭の沖にある能古島で、現在の福岡市西区に属する。
 詞書によれば、筑前国志麻郡の韓亭に着いて三日間船を泊めていた時、夜の月の光が白々と照りわたり、その美しさに向かって旅の思いに胸がふさがり、それぞれが心を述べて作った六首の一つである。韓亭は現在の福岡市西区宮浦付近とされ、筑紫を離れて外洋へ向かう前の港であった。本歌には左注がなく、作者の名は記されていない。

 初句「韓亭」 筑前国志麻郡の港で、現在の福岡市西区宮浦付近とされる。
 二句「能許の浦波」 能古島の浦に立つ波のことである。
 三句「立たぬ日は」 波の立たない日はの意で、穏やかな日もあることをいう。
 四句「あれども家に」 そういう日はあるけれども、家にの意で、逆接によって上の句と下の句を対比させている。
 結句「恋ひぬ日はなし」 家を恋しく思わない日はないの意で、三句の「立たぬ日は」と同じ形を重ねて対句的に結んでいる。

からどまり:筑前国志麻郡の港、現在の福岡市西区宮浦付近
うらなみ:浦に立つ波
出典
万葉集
前の歌
旅にあれど夜は火灯し居る我れを 闇にや妹が恋ひつつあるらむ
次の歌
ぬばたまの夜渡る月にあらませば 家なる妹に逢ひて来ましを