草枕旅を苦しみ恋ひ居れば
可也の山辺にさを鹿鳴くも
- 歌の意味
-
旅がつらいので家を恋しく思っていると、可也の山のあたりで、牡鹿が鳴いている。
- 鑑賞
-
巻第十五 遣新羅使人歌 3674
詞書「引津の亭に船泊まりして作る歌七首」
旅のつらさに家を恋しく思っていると、可也の山のあたりで牡鹿が鳴いたと詠んだ歌である。牡鹿は秋に妻を求めて鳴くとされ、その声が妻を恋う自分の心と響き合っている。引津の亭での一連は、本歌のほか本巻の第三千六百七十八首や第三千六百八十首にも鹿の声が詠まれ、秋の夜の鹿の声が旅の恋しさを繰り返し呼び起こしている。可也の山は現在の糸島市にある可也山である。
作者の壬生宇太麻呂は遣新羅使の大判官を務めた官人で、壬生使主宇太麻呂とも記される。左注に「右二首大判官」とあり、引津の亭での最初の二首が大判官の作とされる。
詞書によれば、引津の亭に船を泊めて作った七首の一つである。引津は筑前国志麻郡の港で、現在の福岡県糸島市志摩の引津湾付近とされる。
初句「草枕」 草を結んで枕とする旅寝の意から、「旅」にかかる枕詞である。
二句「旅を苦しみ」 「を〜み」は理由を表す語法で、旅がつらいのでの意である。
三句「恋ひ居れば」 家を恋しく思っているとの意で、已然形に「ば」がついた確定条件である。
四句「可也の山辺に」 可也山のあたりにの意で、引津の亭から望まれる山である。
結句「さを鹿鳴くも」 「さを鹿」は牡鹿のこと、「も」は詠嘆で、牡鹿が鳴いていることだと結ぶ。妻を求める鹿の声が作者の恋しさと重なる。
くさまくら:「旅」にかかる枕詞
さをしか:牡鹿
- 作者
-
壬生宇太麻呂
- 出典
-
万葉集
- 前の歌
-
風吹けば沖つ白波畏みと 能許の亭にあまた夜ぞ寝る
- 次の歌
-
沖つ波高く立つ日にあへりきと 都の人は聞きてけむかも