古典和歌stream

帰り来て見むと思ひし我が宿の
秋萩すすき散りにけむかも

歌の意味
帰って来て見ようと思っていた我が家の庭の秋萩やすすきは、もう散ってしまったことだろうか。
鑑賞
巻第十五 遣新羅使人歌 3681

詞書「肥前国松浦郡の狛島の亭に船泊まりする夜に、遥かに海浪を望みて、おのもおのも旅の心を慟みて作る歌七首」
 帰ったら見ようと思っていた我が家の庭の秋萩やすすきは、もう散ってしまっただろうかと思いやった歌である。秋に帰る予定で楽しみにしていた庭の花が、帰れないまま散っていくことへの嘆きに、帰国の遅れへの焦りが込められている。左注に「右一首秦田麻呂」とある。
 作者の秦田麻呂は遣新羅使の一行に加わった人物であるが、官職などの伝は詳らかでない。
 詞書によれば、肥前国松浦郡の狛島の亭に船を泊めた夜に、遥かに海の波を望み、それぞれが旅の悲しみを述べて作った七首の一つである。狛島は現在の佐賀県唐津市の神集島とされ、壱岐へ渡る前の港であった。

 初句「帰り来て」 旅から帰って来ての意である。
 二句「見むと思ひし」 「む」は意志、「し」は過去の助動詞「き」の連体形で、見ようと思っていたの意である。
 三句「我が宿の」 「宿」は家、家の庭のことで、都の自宅の庭を指す。
 四句「秋萩すすき」 秋の野や庭を彩る萩とすすきで、秋の帰国の日に眺めるはずだった花である。
 結句「散りにけむかも」 「に」は完了、「けむ」は過去の推量、「かも」は疑問を含む詠嘆で、散ってしまったことだろうかと結ぶ。

やど:家、家の庭
作者
秦田麻呂
出典
万葉集
前の歌
夜を長み寐の寝らえぬにあしひきの 山彦響めさを鹿鳴くも
次の歌
天地の神を祈ひつつ我れ待たむ 早来ませ君待たば苦しも