君が行く道の長手を繰り畳ね
焼き滅ぼさむ天の火もがも
- 歌の意味
-
あなたが行く長い道のりを、手繰り寄せて畳み重ね、焼き滅ぼしてしまうような天の火があればよいのに。
- 鑑賞
-
巻第十五 中臣宅守狭野弟上娘子贈答歌 3724
詞書は前の歌に続き「中臣朝臣宅守と狭野弟上娘子と贈答する歌」
宅守が行く長い道を手繰り寄せて畳み、焼き滅ぼしてしまう天の火があればよいのにと願った歌である。道そのものがなくなれば別れずにすむという、激しい情熱をそのままことばにした大胆な発想で、万葉集の恋歌の中でもとりわけ名高い一首である。女性の恋情の激しさをよく示す歌として、古くから高く評価されている。
作者の狭野弟上娘子は、宮中の蔵部に仕えた女嬬と呼ばれる下級の女官で、狭野茅上娘子とも記される。
左注に「右四首娘子臨別作歌」とあり、本巻の第三千七百二十三首から第三千七百二十六首までの四首は、宅守との別れに臨んで娘子が作った歌である。本巻の後半には、中臣宅守と狭野弟上娘子とが交わした贈答歌六十三首が収められている。巻の目録によれば、宅守が蔵部の女嬬であった娘子を娶った時に、勅によって越前国に配流されたという。配流の地は越前国の味真野、現在の福井県越前市付近とされる。
初句「君が行く」 宅守が配流の地へ向かっていくことをいう。
二句「道の長手を」 「長手」は長い道のりのことで、越前までの遠い道を指す。
三句「繰り畳ね」 「繰り畳ぬ」は糸を手繰るように引き寄せて畳み重ねる意で、道を布のように扱う奇抜な発想である。
四句「焼き滅ぼさむ」 「む」は推量の助動詞の連体形で、焼き滅ぼしてしまうようなの意。結句の「天の火」を修飾する。
結句「天の火もがも」 「天の火」は天から降る火、「もがも」は願望の終助詞で、天の火があればよいのにと結ぶ。
ながて:長い道のり
くりたたぬ:手繰り寄せて畳み重ねる
あめのひ:天から降る火
- 作者
-
狭野弟上娘子
- 出典
-
万葉集
- 前の歌
-
あしひきの山道越えむとする君を 心に持ちて安けくもなし
- 次の歌
-
我が背子しけだし罷らば白栲の 袖を振らさね見つつ偲はむ