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我が背子しけだし罷らば白栲の
袖を振らさね見つつ偲はむ

歌の意味
私の夫が、もしいよいよ都を去って行くのなら、白い袖を振ってください。それを見ながら、あなたをしのびましょう。
鑑賞
巻第十五 中臣宅守狭野弟上娘子贈答歌 3725

詞書は前の歌に続き「中臣朝臣宅守と狭野弟上娘子と贈答する歌」
 夫がいよいよ旅立つのなら、白い袖を振ってほしい、それを見ながらしのぶからと娘子が詠んだ歌である。袖を振ることは別れの際に相手の魂を招き寄せる呪的なしぐさとされ、その姿を心に刻んで別れの後の支えとしようとしている。前歌の激しさから一転し、別れを受け入れようとする切ない心が表されている。
 作者の狭野弟上娘子は、宮中の蔵部に仕えた女嬬と呼ばれる下級の女官で、狭野茅上娘子とも記される。
 左注に「右四首娘子臨別作歌」とあり、本巻の第三千七百二十三首から第三千七百二十六首までの四首は、宅守との別れに臨んで娘子が作った歌である。本巻の後半には、中臣宅守と狭野弟上娘子とが交わした贈答歌六十三首が収められている。巻の目録によれば、宅守が蔵部の女嬬であった娘子を娶った時に、勅によって越前国に配流されたという。配流の地は越前国の味真野、現在の福井県越前市付近とされる。

 初句「我が背子し」 「背子」は女性が夫や恋人を親しんで呼ぶ語、「し」は強意である。
 二句「けだし罷らば」 「けだし」はもしかして、「罷る」は都から地方へ下る意で、もしいよいよ去って行くならばの意である。
 三句「白栲の」 白い栲の布の意で、「袖」にかかる枕詞である。
 四句「袖を振らさね」 「振らす」は「振る」の尊敬語、「ね」は相手への願望を表す終助詞で、袖を振ってくださいの意。ここで切れる四句切れである。
 結句「見つつ偲はむ」 「偲ふ」は慕い思う意、「む」は意志で、それを見ながらしのびましょうと結ぶ。

せこ:女性が夫や恋人を親しんで呼ぶ語
まかる:都から地方へ下る、退出する
しろたへ:白い栲の布、「袖」にかかる枕詞
しのふ:慕い思う
作者
狭野弟上娘子
出典
万葉集
前の歌
君が行く道の長手を繰り畳ね 焼き滅ぼさむ天の火もがも
次の歌
このころは恋ひつつもあらむ玉櫛笥 明けてをちよりすべなかるべし