このころは恋ひつつもあらむ玉櫛笥
明けてをちよりすべなかるべし
- 歌の意味
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今しばらくは、恋しく思いながらも何とか過ごしていけるだろう。けれど夜が明けて、あなたが旅立った後からは、どうしようもなくなるだろう。
- 鑑賞
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巻第十五 中臣宅守狭野弟上娘子贈答歌 3726
詞書は前の歌に続き「中臣朝臣宅守と狭野弟上娘子と贈答する歌」
今のうちはまだ恋しさに耐えていられるが、夜が明けて宅守が旅立った後は、どうしようもなくなるだろうと詠んだ歌である。別れの朝を目前にして、その後に訪れる耐えがたい日々を予感している。娘子の別れの歌四首はこの歌で結ばれ、続いて宅守が道中で詠んだ歌へと移っていく。
作者の狭野弟上娘子は、宮中の蔵部に仕えた女嬬と呼ばれる下級の女官で、狭野茅上娘子とも記される。
左注に「右四首娘子臨別作歌」とあり、本巻の第三千七百二十三首から第三千七百二十六首までの四首は、宅守との別れに臨んで娘子が作った歌である。本巻の後半には、中臣宅守と狭野弟上娘子とが交わした贈答歌六十三首が収められている。巻の目録によれば、宅守が蔵部の女嬬であった娘子を娶った時に、勅によって越前国に配流されたという。配流の地は越前国の味真野、現在の福井県越前市付近とされる。
初句「このころは」 今しばらくの間はの意で、別れの前の今を指す。
二句「恋ひつつもあらむ」 「む」は推量で、恋しく思いながらもいられるだろうの意。ここで切れる二句切れである。
三句「玉櫛笥」 櫛などを入れる美しい箱のことで、蓋を開けることから「明く」にかかる枕詞である。
四句「明けてをちより」 「をち」は向こう、それより後の意で、夜が明けてから後はの意である。
結句「すべなかるべし」 「すべ」は方法、「べし」は推量で、どうしようもなくなるだろうと結ぶ。
たまくしげ:櫛などを入れる美しい箱、「明く」にかかる枕詞
をち:向こう、それより後
すべ:方法、手段
- 作者
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狭野弟上娘子
- 出典
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万葉集
- 前の歌
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我が背子しけだし罷らば白栲の 袖を振らさね見つつ偲はむ
- 次の歌
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塵泥の数にもあらぬ我れゆゑに 思ひわぶらむ妹がかなしさ