畏みと告らずありしをみ越道の
手向けに立ちて妹が名告りつ
- 歌の意味
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恐れ多いからと口に出さずにいたのに、越の国への道の峠で神に手向けをする所に立って、つい妻の名を口にしてしまった。
- 鑑賞
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巻第十五 中臣宅守狭野弟上娘子贈答歌 3730
詞書は前の歌に続き「中臣朝臣宅守と狭野弟上娘子と贈答する歌」
恐れ多いからと口にせずにいた妻の名を、越の国への道の峠で手向けをする所に立って、つい口にしてしまったと詠んだ歌である。当時、恋人の名を人前で口にすることは慎むべきこととされていたが、国境の峠に立って都を離れる実感が迫り、こらえきれずに妻の名を呼んでしまった心の動きが表されている。宅守の道中の歌四首はこの歌で結ばれる。
作者の中臣宅守は中臣東人の子で、神祇を司る中臣氏の出である。罪を得て越前国に配流されたが、のちに赦されて都に戻った。
左注に「右四首中臣朝臣宅守上道作歌」とあり、本巻の第三千七百二十七首から第三千七百三十首までの四首は、配流の地へ向かう道中で宅守が作った歌である。本巻の後半には、中臣宅守と狭野弟上娘子とが交わした贈答歌六十三首が収められている。巻の目録によれば、宅守が蔵部の女嬬であった娘子を娶った時に、勅によって越前国に配流されたという。配流の地は越前国の味真野、現在の福井県越前市付近とされる。
初句「畏みと」 「畏み」は形容詞「畏し」の語幹に「み」がついた形で、恐れ多いのでの意。「と」は理由を示す。
二句「告らずありしを」 「告る」は口に出して言う、名を明かす意、「を」は逆接で、口に出さずにいたのにの意である。
三句「み越道の」 「み」は接頭語、「越道」は越の国へ向かう道のことである。
四句「手向けに立ちて」 「手向け」は峠などで道の神に幣を供えて旅の無事を祈る所で、国境の峠を指す。
結句「妹が名告りつ」 「つ」は完了で、妻の名を口にしてしまったと結ぶ。二句の「告らず」と対照をなしている。
のる:口に出して言う、名を明かす
こしぢ:越の国へ向かう道
たむけ:峠などで道の神に幣を供えて旅の無事を祈る所
- 作者
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中臣宅守
- 出典
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万葉集
- 前の歌
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愛しと我が思ふ妹を思ひつつ 行けばかもとな行き悪しかるらむ
- 次の歌
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思ふゑに逢ふものならばしましくも 妹が目離れて我れ居らめやも