遠くあれば一日一夜も思はずて
あるらむものと思ほしめすな
- 歌の意味
-
遠く離れているからといって、一日や一夜くらいは私があなたのことを思わずにいるだろうなどと、お思いにならないでください。
- 鑑賞
-
巻第十五 中臣宅守狭野弟上娘子贈答歌 3736
詞書は前の歌に続き「中臣朝臣宅守と狭野弟上娘子と贈答する歌」
遠く離れているから一日一夜くらいは思わずにいるだろうなどと思わないでほしいと、娘子に訴えた歌である。離れて暮らすうちに心が離れるのではないかという娘子の不安を思いやり、それを打ち消そうとしている。「思ほしめす」という敬語を用いて、娘子への丁寧な呼びかけとなっている。
作者の中臣宅守は中臣東人の子で、神祇を司る中臣氏の出である。罪を得て越前国に配流されたが、のちに赦されて都に戻った。
左注に「右十四首中臣朝臣宅守」とあり、本巻の第三千七百三十一首から第三千七百四十四首までの十四首は、配流の地にあって宅守が娘子に贈った歌である。本巻の後半には、中臣宅守と狭野弟上娘子とが交わした贈答歌六十三首が収められている。巻の目録によれば、宅守が蔵部の女嬬であった娘子を娶った時に、勅によって越前国に配流されたという。配流の地は越前国の味真野、現在の福井県越前市付近とされる。
初句「遠くあれば」 遠く離れているのでの意である。
二句「一日一夜も」 一日や一夜もの意で、ごく短い間をいう。
三句「思はずて」 思わないでの意である。
四句「あるらむものと」 「らむ」は現在の推量で、いるだろうものとの意である。
結句「思ほしめすな」 「思ほしめす」は「思ふ」の尊敬語、「な」は禁止で、お思いにならないでくださいと結ぶ。
おもほしめす:「思ふ」の尊敬語、お思いになる
- 作者
-
中臣宅守
- 出典
-
万葉集
- 前の歌
-
思はずもまことあり得むやさ寝る夜の 夢にも妹が見えざらなくに
- 次の歌
-
人よりは妹ぞも悪しき恋もなく あらましものを思はしめつつ