人よりは妹ぞも悪しき恋もなく
あらましものを思はしめつつ
- 歌の意味
-
ほかの誰よりも、妻こそが悪いのだ。恋の苦しみもなく過ごせただろうに、こんなにも思い悩ませ続けるのだから。
- 鑑賞
-
巻第十五 中臣宅守狭野弟上娘子贈答歌 3737
詞書は前の歌に続き「中臣朝臣宅守と狭野弟上娘子と贈答する歌」
ほかの誰よりも妻が悪い、恋の苦しみもなく過ごせたはずなのに、思い悩ませるのだからと、妻を責めるかたちで詠んだ歌である。配流の原因となった人々を責めるのではなく、恋しさを与える妻を「悪しき」と言うところに、恋の苦しさの深さと妻への強い思いが逆説的に表されている。
作者の中臣宅守は中臣東人の子で、神祇を司る中臣氏の出である。罪を得て越前国に配流されたが、のちに赦されて都に戻った。
左注に「右十四首中臣朝臣宅守」とあり、本巻の第三千七百三十一首から第三千七百四十四首までの十四首は、配流の地にあって宅守が娘子に贈った歌である。本巻の後半には、中臣宅守と狭野弟上娘子とが交わした贈答歌六十三首が収められている。巻の目録によれば、宅守が蔵部の女嬬であった娘子を娶った時に、勅によって越前国に配流されたという。配流の地は越前国の味真野、現在の福井県越前市付近とされる。
初句「人よりは」 ほかの人よりはの意で、配流の原因となった人々などを含むと考えられる。
二句「妹ぞも悪しき」 「ぞ」は係助詞、「も」は詠嘆で、結びは連体形「悪しき」となる係り結びである。妻こそが悪いの意で、ここで切れる二句切れである。
三句「恋もなく」 恋の苦しみもなくの意である。
四句「あらましものを」 「まし」は反実仮想、「ものを」は逆接を含む詠嘆で、過ごせただろうにの意である。
結句「思はしめつつ」 「しむ」は使役、「つつ」は継続で、思い悩ませ続けてと言いさして結び、妻を責める理由を示している。
おもはしむ:思わせる、思い悩ませる
- 作者
-
中臣宅守
- 出典
-
万葉集
- 前の歌
-
遠くあれば一日一夜も思はずて あるらむものと思ほしめすな
- 次の歌
-
思ひつつ寝ればかもとなぬばたまの 一夜もおちず夢にし見ゆる