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愛しと我が思ふ妹を山川を
中にへなりて安けくもなし

歌の意味
いとしいと私が思う妻を、山や川を間に隔てて離れていると、心が少しも安らかでない。
鑑賞
巻第十五 中臣宅守狭野弟上娘子贈答歌 3755

詞書は前の歌に続き「中臣朝臣宅守と狭野弟上娘子と贈答する歌」
 いとしい妻と山や川に隔てられていると、心が少しも安らかでないと詠んだ歌である。都と越前を隔てる山川が、二人を引き離す障壁として意識されている。上の句は道中の歌である本巻の第三千七百二十九首と同じ「愛しと我が思ふ妹を」で始まり、結句「安けくもなし」は娘子が別れに臨んで詠んだ第三千七百二十三首の結句と同じであり、別れの時の娘子の不安を、配流の地の宅守が同じことばで受けている。
 作者の中臣宅守は中臣東人の子で、神祇を司る中臣氏の出である。罪を得て越前国に配流されたが、のちに赦されて都に戻った。
 左注に「右十三首中臣朝臣宅守」とあり、本巻の第三千七百五十四首から第三千七百六十六首までの十三首は、宅守が配流の地から娘子に贈った歌である。本巻の後半には、中臣宅守と狭野弟上娘子とが交わした贈答歌六十三首が収められている。巻の目録によれば、宅守が蔵部の女嬬であった娘子を娶った時に、勅によって越前国に配流されたという。配流の地は越前国の味真野、現在の福井県越前市付近とされる。

 初句「愛しと」 「愛し」は「うるはし」と読み、いとしい意である。
 二句「我が思ふ妹を」 私が思う妻をの意で、本巻の第三千七百二十九首と同じ二句である。
 三句「山川を」 山や川をの意で、都と越前とを隔てるものである。
 四句「中にへなりて」 「へなる」は隔たる、隔てる意で、間に隔てての意である。本巻の第三千七百六十四首にも同じ句がある。
 結句「安けくもなし」 安らかなこともないの意で、本巻の第三千七百二十三首の結句と同じである。

へなる:隔たる、隔てる
やまかは:山と川
作者
中臣宅守
出典
万葉集
前の歌
過所なしに関飛び越ゆる霍公鳥 多我子尓毛止まず通はむ
次の歌
向ひ居て一日もおちず見しかども 厭はぬ妹を月わたるまで