たちかへり泣けども我れは験なみ
思ひわぶれて寝る夜しぞ多き
- 歌の意味
-
繰り返し泣いてみても、私にはその甲斐もないので、思いに沈んで疲れ果てて寝る夜ばかりが多い。
- 鑑賞
-
巻第十五 中臣宅守狭野弟上娘子贈答歌 3759
詞書は前の歌に続き「中臣朝臣宅守と狭野弟上娘子と贈答する歌」
繰り返し泣いても甲斐がないので、思いに沈み疲れ果てて寝る夜ばかりが多いと詠んだ歌である。泣いても何も変わらない無力感と、嘆き疲れて眠るしかない夜の重なりが表されている。前歌の宮廷への恨みから、再び自らの嘆きへと心が戻っている。
作者の中臣宅守は中臣東人の子で、神祇を司る中臣氏の出である。罪を得て越前国に配流されたが、のちに赦されて都に戻った。
左注に「右十三首中臣朝臣宅守」とあり、本巻の第三千七百五十四首から第三千七百六十六首までの十三首は、宅守が配流の地から娘子に贈った歌である。本巻の後半には、中臣宅守と狭野弟上娘子とが交わした贈答歌六十三首が収められている。巻の目録によれば、宅守が蔵部の女嬬であった娘子を娶った時に、勅によって越前国に配流されたという。配流の地は越前国の味真野、現在の福井県越前市付近とされる。
初句「たちかへり」 繰り返し、何度もの意である。
二句「泣けども我れは」 逆接の「ども」で、泣いても私はの意である。
三句「験なみ」 「験」はかい、効果、「なみ」は形容詞「なし」に「み」がついたミ語法で、甲斐がないのでの意である。
四句「思ひわぶれて」 「思ひわぶ」は思い悩む、嘆き疲れる意で、思いに沈み疲れ果てての意である。
結句「寝る夜しぞ多き」 「し」は強意、「ぞ」は係助詞で、結びは連体形「多き」となる係り結びである。八音の字余りである。
たちかへる:繰り返す
しるし:かい、効果
おもひわぶ:思い悩む、嘆き疲れる
- 作者
-
中臣宅守
- 出典
-
万葉集
- 前の歌
-
さす竹の大宮人は今もかも 人なぶりのみ好みたるらむ
- 次の歌
-
さ寝る夜は多くあれども物思はず 安く寝る夜はさねなきものを