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旅と言へば言にぞやすきすべもなく
苦しき旅も言にまさめやも

歌の意味
旅と言ってしまえば、言葉の上ではたやすい。どうしようもなく苦しいこの旅も、「旅」ということば以上のものとして人に伝わるだろうか、いや伝わりはしない。
鑑賞
巻第十五 中臣宅守狭野弟上娘子贈答歌 3763

詞書は前の歌に続き「中臣朝臣宅守と狭野弟上娘子と贈答する歌」
 旅と言えば言葉ではたやすいが、どうしようもなく苦しいこの旅も、「旅」ということば以上には人に伝わらないだろうと詠んだ歌である。配流という苦しみが、世間からは「旅」という軽いことばで片づけられてしまうことへのもどかしさが表されている。初句と二句は本巻の第三千七百四十三首と同じであり、同じ嘆きが一連の中で繰り返されている。
 作者の中臣宅守は中臣東人の子で、神祇を司る中臣氏の出である。罪を得て越前国に配流されたが、のちに赦されて都に戻った。
 左注に「右十三首中臣朝臣宅守」とあり、本巻の第三千七百五十四首から第三千七百六十六首までの十三首は、宅守が配流の地から娘子に贈った歌である。本巻の後半には、中臣宅守と狭野弟上娘子とが交わした贈答歌六十三首が収められている。巻の目録によれば、宅守が蔵部の女嬬であった娘子を娶った時に、勅によって越前国に配流されたという。配流の地は越前国の味真野、現在の福井県越前市付近とされる。

 初句「旅と言へば」 旅と言えばの意で、配流の境遇を旅と呼んでいる。
 二句「言にぞやすき」 「言」はことば、「ぞ」は係助詞で、結びは連体形「やすき」となる。ことばの上ではたやすいの意で、本巻の第三千七百四十三首と同じ二句である。
 三句「すべもなく」 どうしようもなくの意である。
 四句「苦しき旅も」 苦しいこの旅もの意で、配流の苦しみを指す。
 結句「言にまさめやも」 「め」は推量の「む」の已然形、「やも」は反語で、ことば以上のものとなろうか、いやならないと結ぶ。

こと:言葉
すべ:方法、手段
作者
中臣宅守
出典
万葉集
前の歌
我妹子に逢坂山を越えて来て 泣きつつ居れど逢ふよしもなし
次の歌
山川を中にへなりて遠くとも 心を近く思ほせ我妹