帰りける人来れりと言ひしかば
ほとほと死にき君かと思ひて
- 歌の意味
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赦されて帰ってきた人が着いたと人が言ったので、あやうく死にそうになった。あなたかと思って。
- 鑑賞
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巻第十五 中臣宅守狭野弟上娘子贈答歌 3772
詞書は前の歌に続き「中臣朝臣宅守と狭野弟上娘子と贈答する歌」
赦されて帰ってきた人が着いたと聞き、あなたかと思ってあやうく死にそうになったと詠んだ歌である。天平十二年に大赦があり、配流の人々の多くが赦されたが、宅守はその中に含まれていなかったことが記録に見える。期待が高まった瞬間とその後の落胆とが、「ほとほと死にき」という激しいことばに込められている。
作者の狭野弟上娘子は、宮中の蔵部に仕えた女嬬と呼ばれる下級の女官で、狭野茅上娘子とも記される。
左注に「右八首娘子」とあり、本巻の第三千七百六十七首から第三千七百七十四首までの八首は、娘子が宅守に贈った歌である。本巻の後半には、中臣宅守と狭野弟上娘子とが交わした贈答歌六十三首が収められている。巻の目録によれば、宅守が蔵部の女嬬であった娘子を娶った時に、勅によって越前国に配流されたという。配流の地は越前国の味真野、現在の福井県越前市付近とされる。
初句「帰りける」 「ける」は過去の助動詞「けり」の連体形で、配所から赦されて帰ってきたの意である。
二句「人来れりと」 「り」は完了で、その人が着いたとの意である。
三句「言ひしかば」 「しか」は過去の助動詞「き」の已然形で、人が言ったのでの意となる。
四句「ほとほと死にき」 「ほとほと」はあやうく、もう少しでの意、「き」は過去で、あやうく死にそうになったの意。ここで切れる四句切れである。
結句「君かと思ひて」 あなたかと思ってと、四句の理由を倒置によって最後に示している。
かへる:帰る、ここでは赦されて配所から帰る
- 作者
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狭野弟上娘子
- 出典
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万葉集
- 前の歌
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宮人の安寐も寝ずて今日今日と 待つらむものを見えぬ君かも
- 次の歌
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君が共行かましものを同じこと 後れて居れどよきこともなし