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我が背子が帰り来まさむ時のため
命残さむ忘れたまふな

歌の意味
私の夫が帰っていらっしゃる、その時のために、命を残しておきましょう。私のことをお忘れにならないでください。
鑑賞
巻第十五 中臣宅守狭野弟上娘子贈答歌 3774

詞書は前の歌に続き「中臣朝臣宅守と狭野弟上娘子と贈答する歌」
 夫が帰って来る時のために命を残しておこう、忘れないでほしいと詠んだ歌である。前歌までの絶望や後悔を乗り越え、再会の日のために生き続けようとする決意が表されている。娘子が先に詠んだ本巻の第三千七百四十五首の「命あらば逢ふこともあらむ」と同じく、命を保つことに再会の望みを託している。左注「右八首娘子」の最後の一首である。
 作者の狭野弟上娘子は、宮中の蔵部に仕えた女嬬と呼ばれる下級の女官で、狭野茅上娘子とも記される。
 左注に「右八首娘子」とあり、本巻の第三千七百六十七首から第三千七百七十四首までの八首は、娘子が宅守に贈った歌である。本巻の後半には、中臣宅守と狭野弟上娘子とが交わした贈答歌六十三首が収められている。巻の目録によれば、宅守が蔵部の女嬬であった娘子を娶った時に、勅によって越前国に配流されたという。配流の地は越前国の味真野、現在の福井県越前市付近とされる。

 初句「我が背子が」 「背子」は女性が夫や恋人を親しんで呼ぶ語で、宅守を指す。
 二句「帰り来まさむ」 「ます」は尊敬の補助動詞、「む」は推量で、帰っていらっしゃるであろうの意である。
 三句「時のため」 その時のためにの意である。
 四句「命残さむ」 「む」は意志で、命を残しておこうの意。ここで切れる四句切れである。
 結句「忘れたまふな」 「たまふ」は尊敬、「な」は禁止で、お忘れにならないでくださいと結ぶ。

せこ:女性が夫や恋人を親しんで呼ぶ語
作者
狭野弟上娘子
出典
万葉集
前の歌
君が共行かましものを同じこと 後れて居れどよきこともなし
次の歌
あらたまの年の緒長く逢はざれど 異しき心を我が思はなくに