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はしきやし翁の歌におほほしき
九の子らや感けて居らむ

歌の意味
いとしいお爺さんの歌に、ぼんやりとした私たち九人の娘は、心を動かされているのではなかろうか。
鑑賞
巻第十六 有由縁并雑歌 3794

詞書「娘子らが和ふる歌九首」
 翁の歌を聞いて、うかつな自分たち九人の娘は心を動かされてしまっているのだろうかと詠む歌である。翁をからかった娘たちが、その歌に感じ入った驚きを素直に表し、九首の一連の口火を切っている。
 竹取翁の長歌と反歌に、からかっていた九人の娘子が次々に和えた一連である。二首目以降は結句がほぼ「我れも寄りなむ」で統一され、一人また一人と翁に心を寄せていく趣向となっている。
 作者は竹取翁に出会った九人の娘子の一人で、名は伝わらない。翁から神仙と呼ばれた、物語上の人物である。

 初句「はしきやし」は、いとしい、慕わしい、の意である。翁が長歌の中で用いた「はしきやし」の語を、娘子がそのまま返している。
 二句「翁の歌に」は、お爺さんの歌に、の意で、竹取翁の長歌と反歌を指す。翁の「子ら」という呼びかけに対し、娘子の側から「翁」と呼び返している。
 三句「おほほしき」は、ぼんやりとした、うかつな、の意である。翁を軽んじた自分たちのうかつさを、へりくだって言っている。
 四句「九の子らや」は、私たち九人の娘は、の意である。係助詞「や」が結句の「む」と係り結びをつくり、疑問に詠嘆を込めている。
 結句「感けて居らむ」は、心を動かされているのだろうか、の意である。四句の「や」を受けて連体形「む」で結び、九首の一連の口火を切っている。

かまく:心を動かされる、感じ入る
出典
万葉集
前の歌
白髪し子らに生ひなばかくのごと 若けむ子らに罵らえかねめや
次の歌
恥を忍び恥を黙して事もなく 物言はぬさきに我れは寄りなむ