事しあらば小泊瀬山の石城にも
隠らばともにな思ひそ我が背
- 歌の意味
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何かあったなら、小泊瀬山の石の墓にでも一緒にこもりましょう。思い悩みなさいますな、あなた。
- 鑑賞
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巻第十六 有由縁并雑歌 3806
詞書はなく、左注に「右、伝へて云はく、時に女子有り。父母に知らせずして竊かに壮士に接ふ。壮士その親の呵嘖を悚惕りて、稍く猶予ふ意有り。これに因りて娘子この歌を裁作りて、その夫に贈り与ふ」とある
もし何かあったなら、小泊瀬山の墓所にでも共にこもろう、だから思い悩まないでほしいと、ためらう男を励ます歌である。死をも共にする覚悟を示した、娘子の一途で力強い愛情が表れている。
左注によれば、親に知らせずに男と通じていた娘が、親に叱られることを恐れてためらう男に、この歌を贈ったという。前の第三千八百三首と同じく、親に隠れた恋を題材とする歌であるが、こちらは死をも辞さない強い決意を示している。
作者は伝承中の娘子で、名は伝わらない。
初句「事しあらば」は、何か事が起こったならば、の意である。「し」は強意の副助詞で、親に知られて咎められる事態を想定している。
二句「小泊瀬山の」は、大和の泊瀬の山をいう。「小」は接頭語で、泊瀬は古くから葬送の地として知られた。
三句「石城にも」は、石で囲った墓所にでも、の意である。墓に共に入る、つまり共に死ぬことを婉曲にいう。
四句「隠らばともに」は、こもるなら一緒に、の意で、ここで句切れとなる。
結句「な思ひそ我が背」は、思い悩みなさいますな、あなた、の意である。「な~そ」の禁止に呼びかけの「我が背」を加え、八音の字余りの結句で男を力強く励ましている。
いはき:石で囲った墓所、石室
をばつせやま:大和国の泊瀬の山。「を」は接頭語で、古くから葬送の地とされた
- 出典
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万葉集
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ぬばたまの黒髪濡れて沫雪の 降るにや来ますここだ恋ふれば
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安積山影さへ見ゆる山の井の 浅き心を我が思はなくに