味飯を水に醸みなし我が待ちし
かひはかつてなし直にしあらねば
- 歌の意味
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おいしい飯を醸して酒にし、私が待っていた甲斐は全くない。あなた自身が来たのではないのだから。
- 鑑賞
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巻第十六 有由縁并雑歌 3810
詞書はなく、左注に「右、伝へて云はく、昔娘子有り。その夫に相別れて望み恋ひて年を経。その時に夫君更に他し妻を取りて、正身は来ずして徒らに褁物を贈る。これに因りて娘子この恨みの歌を作りて還し酬ゆ」とある
おいしい飯で酒を醸して待っていたのに、その甲斐は全くない、あなた自身が来たのではないのだからと恨む歌である。品物だけを贈ってよこした夫への失望が、酒を醸して待つ素朴な暮らしの営みとともに描かれている。
左注によれば、夫と別れて何年も恋い慕っていた娘子のもとに、新たに別の妻を迎えた夫が、自分は来ずに贈り物だけを届けてきたので、娘子が恨みの歌を作って返したという。
作者は伝承中の娘子で、名は伝わらない。
初句「味飯を」は、おいしい飯を、の意である。
二句「水に醸みなし」は、水に醸して酒にし、の意である。米を醸して酒を造ることで、夫の訪れに備えたことをいう。
三句「我が待ちし」は、私が待っていた、の意である。過去の「き」の連体形が、長く待ち続けた月日を示す。
四句「かひはかつてなし」は、甲斐は全くない、の意で、ここで句切れとなる。「かつて」は打消を伴って全く、の意を表す。
結句「直にしあらねば」は、あなた自身ではないのだから、の意である。倒置によって四句の理由を示し、品物ではなく本人に来てほしかった思いを訴えている。
うまいひ:おいしい飯
かむ:酒を醸す(口で米を噛んで醸した古い酒造りによる語)
かひ:甲斐、効き目
- 出典
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万葉集
- 前の歌
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商返しめすとの御法あらばこそ 我が下衣返し給はめ
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占部をも八十の衢も占問へど 君を相見むたどき知らずも