仏造るま朱足らずは水溜まる
池田の朝臣が鼻の上を掘れ
- 歌の意味
-
仏像を造るのに朱が足りないなら、水のたまる池田の朝臣の、鼻の上を掘るがよい。
- 鑑賞
-
巻第十六 有由縁并雑歌 3841
詞書「大神朝臣奥守の報へ嗤ふ歌一首」
仏像を造る朱が足りないなら、池田の朝臣の赤い鼻の上を掘れと詠み、相手の赤鼻をからかってやり返す歌である。前歌で餓鬼にたとえられた奥守が、仏像の朱という同じ仏教の語で応酬している。
前歌の第三千八百四十首と嘲笑の贈答をなす。前歌が寺の餓鬼を持ち出したのに対し、この歌は仏像の彩色に用いる朱を持ち出して、同じ寺の世界で切り返している。
作者の大神奥守は大神朝臣の姓を持つ官人で、天平宝字年間に従五位下に叙せられたとされる。
初句「仏造る」は、仏像を造る、の意である。六音の字余りで、前歌の寺の世界を受けている。
二句「ま朱足らずは」は、朱が足りないならば、の意である。「ま朱」は赤い顔料の朱砂をいう。
三句「水溜まる」は、水のたまる、の意で、「池」にかかる枕詞のように用いて「池田」を導いている。
四句「池田の朝臣が」は、池田の朝臣の、の意である。「朝臣」を「あそ」と親しげに、また軽んじて呼んでいる。
結句「鼻の上を掘れ」は、鼻の上を掘れ、の意である。命令形で痛烈に結び、本巻の第三千八百四十三首も同じ結句でやり返している。
まそほ:赤い顔料の朱砂
あそ:朝臣を親しんで、また軽んじて呼ぶ語
- 作者
-
大神奥守
- 出典
-
万葉集
- 前の歌
-
寺々の女餓鬼申さく大神の 男餓鬼賜りてその子産まはむ
- 次の歌
-
童ども草はな刈りそ八穂蓼を 穂積の朝臣が腋草を刈れ