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磯ごとに海人の釣舟泊てにけり
我が船泊てむ磯の知らなく

歌の意味
磯ごとに海人の釣舟は泊まってしまった。私たちの船が泊まる磯はどこともわからないことよ。
鑑賞
巻第十七 3892

詞書は前の歌に続き「天平二年庚午冬十一月、大宰帥大伴卿、大納言に任ぜられ(帥を兼ぬること旧のごとし)京に上る時に、傔従等、別に海路を取りて京に入る。ここに羇旅を悲傷し、各所心を陳べて作る歌十首」
 日暮れ時、地元の海人の釣舟はそれぞれの磯に泊まったのに、自分たちの船はどこに泊まるのかもわからない、という船旅の心細さを詠んだ歌である。天平二年(730)、大宰帥大伴旅人が大納言に任じられて帰京した際、従者たちは陸路の旅人とは別に海路で都へ向かい、その旅の悲しみを十首に詠んだ。帰るべき港を持つ海人と、行き先の定まらない旅人とを対比し、漂泊の不安を浮かび上がらせている。
 作者は左注に姓名不詳とあり、旅人に従って海路を上った傔従の一人である。

 初句「磯ごとに」は、あちこちの磯ごとに、の意である。磯は岩の多い海岸で、小舟の停泊地となった。
 二句「海人の釣舟」は地元の漁師の釣り舟で、土地に根ざした人々を表す。
 三句「泊てにけり」の「泊つ」は船が港に着いて停泊すること、「にけり」は完了と詠嘆で、もう泊まってしまったことよ、の意である。ここで句切れとなる。
 四句「我が船泊てむ」は、私たちの船が泊まるであろう、の意で、三句の「泊てにけり」と同じ動詞を重ね、すでに泊まった海人の舟とまだ泊まる所のない自分の船とを対照させている。
 結句「磯の知らなく」の「知らなく」は「知らず」のク語法で、知らないことよ、という詠嘆をこめた言いさしである。行く手の見えない旅の不安がこの一語に集約されている。

はつ:船が港に着いて停泊する
いそ:岩の多い海岸
出典
万葉集
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