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隠り沼の下ゆ恋ひあまり白波の
いちしろく出でぬ人の知るべく

歌の意味
隠り沼のように心の底で恋い慕う思いがあふれて、白波のようにはっきりと表に出てしまった、人が知ってしまうほどに。
鑑賞
巻第十七 3935

詞書は前の歌に続き「平群氏女郎、越中守大伴宿祢家持に贈る歌十二首」
 心の底でひそかに恋い慕っていた思いがあふれ、はっきりと表に出てしまった、人が気づくほどに、と忍ぶ恋が顕れたことを詠んだ歌である。越中守として都を離れた家持に、平群氏女郎が折々に使いに託して贈った十二首の一つである。人目を忍ぶ恋が抑えきれずに外に現れてしまったことを、隠り沼と白波という対照的な景物で表している。
 作者の平群氏女郎は平群氏の女性で、伝は未詳である。家持と恋の歌を交わした女性の一人である。
 左注に「右の件の十二首の歌は、時々に便使に寄せて来贈す。一度に送るところにあらず」とある。

 初句「隠り沼の」は草などに覆われて水の流れ出ない沼のことで、「下」にかかる枕詞である。
 二句「下ゆ恋ひあまり」の「下」は心の奥、「ゆ」は起点を示す格助詞で、心の底から恋しさがあふれて、の意である。字余り(八音)である。
 三句「白波の」ははっきりと白く目立つことから「いちしろく」にかかる枕詞である。初句の静かに隠れた沼と、白く立つ波とが対照的に置かれている。
 四句「いちしろく出でぬ」の「いちしろく」ははっきりと、の意で、表に出てしまった、と述べてここで句切れとなる。
 結句「人の知るべく」は、人が知ってしまうほどに、の意で、倒置によって恋の露見を印象深く結んでいる。

こもりぬ:草などに覆われ、水の流れ出ない沼
いちしろし:はっきりしている。目立つ
作者
平群女郎
出典
万葉集
前の歌
なかなかに死なば安けむ君が目を 見ず久ならばすべなかるべし
次の歌
草枕旅にしばしばかくのみや 君を遣りつつ我が恋ひ居らむ