かくのみや我が恋ひ居らむぬばたまの
夜の紐だに解き放けずして
- 歌の意味
-
こんなふうにばかり私は恋い慕っていることになるのだろうか、夜の衣の紐さえ解かないままで。
- 鑑賞
-
巻第十七 3938
詞書は前の歌に続き「平群氏女郎、越中守大伴宿祢家持に贈る歌十二首」
夜の衣の紐さえ解かずに、こうしてばかり恋い慕っていなければならないのだろうか、とひとり寝の嘆きを詠んだ歌である。越中守として都を離れた家持に、平群氏女郎が折々に使いに託して贈った十二首の一つである。紐を解くことは共寝を意味し、それもかなわず独りで夜を過ごす寂しさを表している。
作者の平群氏女郎は平群氏の女性で、伝は未詳である。家持と恋の歌を交わした女性の一人である。
左注に「右の件の十二首の歌は、時々に便使に寄せて来贈す。一度に送るところにあらず」とある。
初句「かくのみや」は本巻の第三千九百三十六首の三句と同じ語で、「や」は疑問の係助詞である。
二句「我が恋ひ居らむ」は第三千九百三十六首の結句と同じ句で、初句の「や」と係り結びをなす。ここで句切れとなる。
三句「ぬばたまの」は夜にかかる枕詞である。
四句「夜の紐だに」は夜の衣の紐さえ、の意で、「だに」は最小限のものを示す副助詞である。
結句「解き放けずして」は、解きほどかないままで、の意で、共寝をしない独り寝を表す。本巻の第三千九百四十八首や第三千九百五十首でも家持が都に残した妻を思って結んだ紐を解かないと詠んでおり、紐をめぐる思いが巻の中で響き合っている。
ぬばたまの:夜、黒などにかかる枕詞
ひも:衣の紐。共寝の際に解くもの
- 作者
-
平群女郎
- 出典
-
万葉集
- 前の歌
-
草枕旅去にし君が帰り来む 月日を知らむすべの知らなく
- 次の歌
-
里近く君がなりなば恋ひめやと もとな思ひし我れぞ悔しき