古典和歌stream

庭に降る雪は千重敷くしかのみに
思ひて君を我が待たなくに

歌の意味
庭に降る雪は幾重にも降り敷いている。しかし、そのくらいの思いであなたを待っていたのではないのに。
鑑賞
巻第十七 3960

詞書「相歓ぶる歌二首 越中守大伴宿祢家持作る」
 庭に降る雪は幾重にも降り積もっているが、私はそれくらいの程度の思いであなたを待っていたのではない、と池主の帰還を喜ぶ歌である。天平十八年(746)八月、掾の大伴池主が大帳使として都へ赴き、同じ年の十一月に任地へ帰って来た。その帰着を祝って詩と酒の宴を催したところ、雪がにわかに一尺余りも降り積もり、また漁夫の船が海に浮かんでいた。家持がこの二つの眺めに思いを寄せて詠んだ二首の一つである。本歌は降り積もる雪を眺めて、雪の深さにもまさる待ちこがれた思いを述べている。
 作者の大伴家持は大納言大伴旅人の子である。天平十八年(746)に越中守となって五年を越中で過ごし、のちに少納言、因幡守などを歴任して中納言に至った。万葉集の編纂に深く関わったと考えられている人物である。
 左注に「右、天平十八年八月をもちて、掾大伴宿祢池主、大帳使に付きて京師に赴き向かふ。しかして同じ年の十一月に本任に還り到る。よりて詩酒の宴を設け、弾絲飲楽す。この日、白雪たちまちに降りて地に積むこと尺余なり。この時に、また漁夫の船、海に入りて瀾に浮かぶ。ここに守大伴宿祢家持、情を二眺に寄せ、聊かに所心を裁る」とある。

 初句「庭に降る」は宴の席から見る庭の雪景を示している。
 二句「雪は千重敷く」は、雪が幾重にも降り敷く、の意で、ここで句切れとなる。左注にいう一尺余りの積雪を表している。
 三句「しかのみに」は、それほどにだけ、その程度に、の意である。
 四句「思ひて君を」は、思ってあなたを、の意で、池主を指す。
 結句「我が待たなくに」は、私は待ったのではないのに、の意で、千重に積もる雪よりもさらに深い思いで待っていたことを表している。

ちへ:幾重にも重なること
しかのみに:それほどにだけ。その程度に
作者
大伴家持
出典
万葉集
前の歌
かからむとかねて知りせば越の海の 荒磯の波も見せましものを
次の歌
白波の寄する磯廻を漕ぐ舟の 楫取る間なく思ほえし君